4・5・6月に残業すると損になるってホント? 社会保険料の決まり方について
もうすぐ新年度が始まります。
「4月・5月・6月は残業をすると税金が上がるから損になる」という話がまことしやかに流れたりします。
この流言を使って、社会保険のしくみを説明していきましょう。
税金は上がるのか?
→ 税金は上がりません。
(税金はその年の所得にかかります。12月の年末調整・翌年3月の確定申告で決まります)
4月・5月・6月に残業すると損といわれるのはなぜ?
→ 4月・5月・6月は社会保険料の標準報酬月額の定時決定の期間です。
その期間の報酬が高いと標準報酬月額が高くなって社会保険料が上がります。
(4月・5月・6月に受け取る報酬になり、3月・4月・5月の残業が対象になるところが多いと思います)
なので、
「税金が」 → 「社会保険料が」
「4月・5月・6月に残業」 → 「3月・4月・5月に残業」
と二重に間違っています。
ここで、社会保険料の決まる仕組みについて解説していきましょう。
被保険者が事業所から受ける報酬は、昇給などで変動します。そこで、変動後の報酬に対応した標準報酬月額とするため、毎年1回、決まった時期に標準報酬月額の見直しをすることとしており、これを定時決定といいます。
対象となるのは、7月1日現在の被保険者について、4月・5月・6月に受けた報酬の平均額を標準報酬月額等級区分にあてはめて、その年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額を決定します。
[全国健康保険協会 HPより」
参考:広島県総務福利課 【福利厚生制度】標準報酬の決定方法 をもとに作成
全国健康保険協会 HPによると、
「標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。なお、年4回以上の支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。」
とあります。
保険料=標準報酬月額×保険料率
(40歳~64歳は介護保険の保険料率が加算されます)
このようにして計算された保険料を労使折半して支払います。
大阪府の令和5年度を例にとると次の通りです。(一部抜粋の表にしています)
大阪府 令和5年3月分(4月納付分)からの
健康保険・厚生年金保険の保険料額表(折半額)
健康保険料は10.29%を労使折半(介護保険料を納付する40〜64歳は12.11%を折半)
厚生年金保険料は18.300%を労使折半
大阪府の30歳会社員が4月・5月・6月の総報酬の平均が245,000円だったとき、健康保険は19等級・厚生年金は16等級になり、
健康保険の保険料は 240,000円×10.29%÷2=12,348円
厚生年金の保険料は 240,000円×18.300%÷2=21,960円
合計で給与から34,308円が引かれます。
給与から社会保険料を引くと 245,000-34,308円=210,692円 になります。
残業などが多くて総報酬の平均が1万円増えて255,000円になると、健康保険は20等級・厚生年金は17等級になり、
健康保険料13,377円+厚生年金保険料23,790円=37,167円になります。
給与から社会保険料を引くと255,000円-37,167円=217,833円になります。
給料が1万円増えたはずなのに、手取りの増加は7,141円になります。
厚生年金の保険料が高くなると将来もらえる年金が多くなるので一概に「損」とばかりはいえません。
給与天引きで何気なく払っている社会保険料ですが、社会保険料の決まり方を知っておいて損はありません。
自身の標準報酬月額を確認してみましょう。(参考までに全国健康保険協会 HPをご紹介します)
社会保険は私たちの生活を支えるもとになっています。
しくみを理解して、制度を利用していきましょう。
「全国健康保険協会」標準報酬月額の決め方
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3165/1963-232/
「全国健康保険協会」令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r05/r5ryougakuhyou3gatukara/
この記事の執筆者:三島 佳予子(Kayoko Mishima)
保有資格:CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 住宅ローンアドバイザー /宅地建物取引士