お金の勉強シリーズvol.10
数字のマジックにだまされるな

お金の話をしていると、たくさんの数字が出てきます。
平均給与、平均支出、平均貯蓄額などなど。
生活の中でも平均点、偏差値、合格確率など色々な数字が出てきます。
この数字が出てきたときには気をつけることが3つあります。
①もとになった数字の定義やデータの数
貯蓄額を調べる調査でよく知られているものに、金融広報委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」というものがあります。
この調査では調査にあたり「金融資産」を次のように定義しています。
(注1)本調査では「金融資産」について、『定期性預金・普通預金等の区分にかかわらず、運用の為または 将来に備えて蓄えている部分とする。ただし、商・工業や農・林・漁業等の事業のために保有している金融資産や、土地・住宅・貴金属等の実物資産、現金、預貯金で日常的な出し入れ・引落しに備えている部分は除く』と調査票に表記している。
「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査](令和5年)より 抜き出し
この定義だと「金融資産」は次のようになります。
・銀行に100万円の使う予定がない貯金があり、ローンがない人は100万円。
・毎月100万円収入があるけれども、毎月100万円使う予定の人は0円。
・貯金が2000万円あり、住宅ローンが2000万円ある人は0円。
・貯金や株式で3000万円あり、ローンは5000万円だが売れば1億円になるマンションを3つと500万円の金の延べ棒を5つ持っている人は0円。
何かを調べるときには「定義」があり、その定義は調べ方によって異なります。同じ時期を対象にした調査でも違いが出るのはそのためです。
【金融広報委員会 「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査](令和5年)】

【総務省統計局統計調査部 消費統計課審査発表係
家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2023年(令和5年)平均結果の概要】

そして、調査サンプルの数や分布が十分でない場合、一部にしか当てはまらないもので自分の参考にならないものになります。
②調べた集団の分布
集団を代表する値には、平均値、中央値、最頻値などがあります。
5人の人がいたとして、
5人の値を足して人数で割った値が平均値
5人の人を値が小さいものから並べて中央の3番目の値が中央値
最も多くの人の値が最頻値
例えば5人の人の貯蓄額を調べた例。

平均値は800万円、中央値は0円、最頻値は0円になります。
サンプルが少ない場合は偏った値になりがちです。
また、サンプルの分布にも関係します。
例えば、「令和4年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書」から中学生男子の平均身長の調査データから平均値をみると161.09cm、中央値、最頻値も160cmのあたりです。

このように、最も多い値が中央付近にあり、そこを中心に左右対称になる正規分布をとる場合は、平均値と中央値、最頻値は似通ってきます。
「家計調査報告貯蓄・負債編 2022年(令和4年) 令和5年5月12日 総務省統計局 発表」から二人以上世帯の勤労者世帯の貯蓄額のデータから見ると、平均値は1901万円、中央値は1168万円、最頻値は100万円未満世帯と3つの値に大きな差があります。

正規分布でなく、上限が決まっていないときに起こります。
「平均いくら」とよく話題になりますが、平均が何の平均なのか疑ってみましょう。
③グラフに表したときの表し方
数値の羅列はわかりにくいので、グラフを用いて表すことがよくあります。
グラフで表すときには、作成者の手が加っていることに注意しましょう。
・パッと見の印象と数値が異なっていないか。
・軸はどんな値か?目盛は等間隔か?
・都合の良い部分(誤差)だけ抜き取ってグラフ化していないか?
【誤解を与える立体表現】
こちらのグラフをご覧ください。どのアイテムの割合がもっとも多いでしょうか?

「アイテムB(赤)が最も多い」と感じたのではないでしょうか?
同じグラフを平面にして、パーセンテージを書き込んだものが次のグラフです。

実際はアイテムA(青)の方が多かったのです。
誤解の原因は、立体表現によって手前のスライスが大きく、奥のスライスが小さく見えてしまったことです。
3D表現は作り手に悪意がなくても誤解のもとになりやすいため注意が必要です。特に理由がなければ平面で見せましょう。デザイン上の理由で3Dにしたい場合には、実際のデータと異なる見え方にならないよう角度を調整するなど、注意して作りましょう。
【誤解を与えるイラスト表現】
以下のグラフは車種別の自動車販売台数を比較しています。
ぱっと見て、どちらの車の販売台数が多いと感じますか?

よく見れば、イラストの大きさと台数は無関係であることが分かります。
でもぱっと見た印象では、赤い車の販売台数の方が多いと感じてしまいませんか?
誤ったグラフを鵜呑みにしないことが重要です。
お金の話には数字はつきものです。
出てくる数字の意味を理解していきましょう。
この記事の執筆者:三島 佳予子(Kayoko Mishima)
保有資格:CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 住宅ローンアドバイザー /宅地建物取
引士