気をつけて!年金繰上げ・繰下げに関わる諸事情

年金の受給開始時期を考える際、金額の増減(繰上げ・繰下げ)だけでなく、「年金には3つの種類(役割)がある」という点に注意が必要です。
年金制度は「老後のため」だけでなく、人生の予期せぬトラブルにも備える仕組みになっています。
そのため、受給時期を変更すると、他の年金や各種手当を受け取る権利に影響が出ることがあります。
それぞれの役割と、付随する主な制度は以下の通りです。
1. 老齢年金(老後の備え)
原則65歳から受け取れる、いわゆる「老後の年金」です。
・老齢基礎年金
・老齢厚生年金(配偶者の加給年金・振替加算)
2. 障害年金(病気やケガの備え)
病気やケガによって一定の障害状態になった場合に受け取れる年金です(現役世代も対象)。
・障害基礎年金
・障害厚生年金
3. 遺族年金(稼ぎ頭の死亡への備え)
生計を維持していた一家の働き手が亡くなった際、遺族に支給される年金です。
・遺族基礎年金(原則、18歳未満の子がある場合)
・遺族厚生年金(中高齢寡婦加算・有期給付加算(2028年〜))
年金は歳をとってから受け取るものと思われている方が多いのではないでしょうか。
実際、受け取っている人の8割以上が老齢給付(老後の年金)です。
(参考:001617995.pdf 令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況)
障害給付を受け取っている方が約2%、遺族給付を受け取っている方が約15%いらっしゃいます。
障害年金や遺族年金は、若い世代の「もしも」を支える重要な仕組みです。年金は老後だけでなく、まさに人生のセーフティネットといえます。

年金の受け取り方が複雑に感じる背景には、実は「一人一年金」の原則があります。
原則として、1人の人が同時に受け取れる年金は「1つの事由(老齢・障害・遺族)」につき1つまで、と決められています。

https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/0000000001_0000003902.pdf
例えば、「繰上げ受給した老齢年金」と「遺族年金」は両方受け取ることができるのでしょうか?
日本年金機構パンフレットにも記載されている通り、原則として両方を同時に全額受け取ることはできません。

https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK35.pdf
日本年金機構パンフレットより
「繰上げ給付」した際に、同時に受け取ることができなくなる(併給できない)主な年金についてまとめてみましょう。

老齢年金の繰下げ待機中に本人が受け取らないまま亡くなった場合、遺族にはさかのぼって「未支給の年金」が一括支給され、その後は「遺族厚生年金」を受け取ることができます。
ここで注意したいのが、「年金の請求権には5年の時効があること」と「本人がすでに受給を始めていると過去にさかのぼる未支給年金は発生しないこと」です。
年齢や受給開始のタイミングによって遺族が受け取れる年金がどう変わるのか、以下の3つのケースを図で比較してみましょう。
・年金を繰下げ待機中に69歳で亡くなった場合

65歳から69歳までの4年分の年金を、遺族がさかのぼって一括でまとめてもらえます。その後は、本来の65歳時点の金額をベースにした遺族厚生年金を毎月受け取れます。
・年金を繰下げ待機中に72歳で亡くなった場合

年金の時効は「5年」なので、亡くなった72歳からさかのぼって過去5年分(67歳〜72歳分)しか受け取れません。一番古い65歳〜67歳までの2年分は時効で捨てることになります。
・年金を繰下げ68歳から受給し、69歳で亡くなった場合

本人がすでに68歳〜69歳までの1年分を受け取っているので、過去にさかのぼって一括でもらえる年金(未支給年金)はありません。亡くなった後は遺族厚生年金に切り替わりますが、金額は本人が増やした額ではなく、増やす前の「65歳時点の本来の金額」をベースに再計算されます。
老齢年金の受給は65歳からが基本です。 65歳より早く受け取る「繰上げ受給」をすると年金額は減り、65歳より遅く受け取る「繰下げ受給」をすると年金額は増えます。
しかし、年金には単に「老後の生活費」というだけでなく、障害や遺族への保障といったさまざまな制度が複雑に絡み合っています。
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、繰上げ受給者は1.2%、繰下げ受給者は1.9%と、どちらも増加傾向にはあるものの、全体の96%以上の方は本来通り65歳から受給しています。
年金の繰上げ・繰下げを検討する際は、額面の増減だけでなく、関連する制度やリスクまでしっかり考慮して判断することが大切です。

この記事の執筆者:三島 佳予子(Kayoko Mishima)
保有資格:CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 住宅ローンアドバイザー /宅地建物取引士

