相続今昔物語 今はどうなっている?

「相続」と聞くと、「遠い先の話」「お金持ちだけの問題」と思われがちです。相続税対策など税金がかかるかどうかなどはお金持ちだけのものかもしれませんが、「相続」はいつか発生するものです。
あなたもわたしも、
「誰かから何かを受け取る相続人」
「誰かに何かを残す被相続人」。
相続は、時代とともに変わってきています。
今と昔の状況を比較してみましょう。

昔と今で変わったところ

①相続人

昔 : 長子単独相続 
今 : 相続人間で平等


ずいぶん昔のことと思われるかもしれませんが、家督相続とか、田畑の相続とかの時代には、家督を継ぐのは一人、田畑を小さくせずまとめて耕作するために一人で相続、とかが行われていました。
戦後、農地改革などもあり、相続人間で平等に相続、の原則になりましたが、心情的に「家長」という感覚が残っている世代、地域もあります。
相続にあたっては「原則」に加えて「心情」も考慮しましょう。

②自宅の相続

昔 : 全財産を分けると家に住めなくなることも
今 : 配偶者居住権ができて「住む権利」を尊重


日本の相続では遺産は自宅不動産が大半、というケースが多々あります。
例えば、自宅不動産3,000万円、預貯金1,000万円、合計4,000万円を妻と子ども1人で相続する場合
以前は合計4,000万円を2人で分けるので、
・自宅を売却して2,000万円ずつ分ける
・妻が自宅を相続して子が預貯金を相続
など、妻の今後の生活に支障が起こることもしばしばでした。

2020年4月1日に配偶者居住権が施行されたあとは自宅と預貯金をそれぞれで分けて相続することができるようになりました。

③預貯金

昔 : 故人が亡くなったら預貯金が引き出せないので立替必要
今 : 遺産分割前に生活費や葬儀費用を銀行から引き出せる


昔は故人が亡くなると銀行口座が凍結され、相続人全員の同意が必要でした。(遺産分割協議が終わったあとなど)
そこで、葬儀費用や当座の生活費など、相続人が立て替えが必要な場面も多々ありました。

2019年7月1日の施行から、預貯金の一定額を遺産分割協議が終わる前でも相続人の一人が払戻しできるようになりました。
これにより、葬儀費用、当座の生活費などを立て替えずに済むようになりました。

払戻の上限額は「預貯金残高×1/3×法定相続人割合」で
例えば相続人が子ども2人、預貯金が600万円の場合、
600万円×1/3×1/2=100万円 になります。
また、同一の金融機関から引き出せるのは150万円が限度になります。

④自筆証書遺言

昔 : 全部自筆で書くのが大変、なくなりやすい 
今 : つくりやすくなって保管もしてくれる

自筆証書遺言は「自分で作成できる」手軽さがありますが、
● すべて(すべての財産目録まで)を手書きで書く必要がある
● 間違えたときは全文書き直し(もしくは既定の方法で修正)
● 作成した遺言が発見されないことがある
● 形式不備で無効になることもある
● 廃棄や改ざんされる危険がある
など、有効な遺言にするのは大変な部分もありました。

2019年1月13日施行から
● 財産目録はパソコン作成OK
● 財産目録は通帳コピー、不動産は登記事項証明書の添付OKになり、作成しやすくなりました。
● 財産目録以外の部分は自分で書く
● コピーなどの場合は目録の各ページに署名・押印など、気を付ける部分も確認しましょう。

また、2020年7月10日施行から
自筆証書遺言を法務局で保管できる制度ができました。
それにより
● 遺言書の紛失、改ざんのおそれがなくなる
● 保管時に形式の確認があるので、形式不備による無効がなくなる
● 家庭裁判所の検認は不要になる
など、自筆証書遺言が安全、確実に保管できるようになりました。

● 本人が法務局に持っていく(代理人は認められない)
● 保管時に3,900円、閲覧に1,700円、また相続開始時の開示に手数料がかかる
など注意点もあるので確認しましょう。

そのほか
⑤介護に貢献した人が報われる「特別寄与制度の創設」
2019年7月1日施行

⑥遺留分の支払いは現金支払いに一本化(共有の回避)
2019年7月1日施行

⑦20年以上連れ添った夫婦間での自宅贈与は相続財産に含めない
2019年7月1日施行

⑧不要土地の国庫帰属
2023年4月27開始

いかがでしたか?
「ご自身が昔に体験した相続と違っている」部分はありましたか?

また、今後も相続に関しては変わっていきます。
今後の変更予定をいくつか載せておきます。

今後の変更予定

①戸籍情報の取得が簡略化(2023年度中予定)
マイナンバーカードや運転免許証の提示で自分と故人の戸籍情報を取得でき、ひとつの窓口ですべての戸籍情報が取得できる

②相続登記の義務化(2024年4月1日開始)
土地や建物を取得した場合は相続登記が義務化される。
・相続の開始と所有権を知った日から3年以内(10万円以下の過料あり)
・新制度スタート前の相続も対象
相続後、登記をしていない土地や建物がある方は早めに登記を。

③銀行口座の一括把握(2024年5月19日までに開始予定)
ひとつひとつ金融機関に故人の口座の有無を照会する必要がなくなります。
・口座とマイナンバー情報が紐づけされている必要があります。
・一つの銀行口座とマイナンバー情報が紐づけされていると、預金保険機構を通じてネット銀行を含むすべての金融機関の口座を一括で照会できます。

そのほかにも、マイナンバーカードの活用拡大で各種変更手続きが簡略にできるようにしようとか、手続き方法は色々と変わってきています。
その中で、注目を浴びているのが「おくやみコーナー」の設置です。
亡くなった後に遺族が役所を何度も回って手続きするのは大変です。
その手続きを一括でできる「おくやみコーナー」を設置する役所が増えています。詳しくはお住いの自治体にお問い合わせください。
一例として、東京都豊島区のおくやみコーナーをご紹介します。

〈東京都豊島区おくやみ手続きガイド〉
https://www.city.toshima.lg.jp/093/documents/2023web_okuyami.pdf

相続はいつかくるもの、そして突然くるもの。
その時の状況に応じて対応しましょう。


<参考文献>
図説 大切な人が亡くなったあとの届け出・手続き 
曽根恵子/監修 宝島社(2022年12月27日 発行)


この記事の執筆者:三島 佳予子(Kayoko Mishima)


保有資格:CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 / 住宅ローンアドバイザー /宅地建物取引士